SNSでよくある投稿、
「お店のチラシを作っていただけるデザイナーさんを探しています。
今、開業したばかりで、できればタダでお願いできる方…」
こんな感じ。
お店の業務に使う営業用のチラシをタダで済ませよう…という話。
これに関してネットでは、大方が否定的な意見で。
・何考えてるんだ、非常識。
・デザイナーかわいそう。
・こういう人がいるから、デザイン料が上がらない。
などなど。
たまに見るこのやり取り、
見ていて、私もだんだん言いたいことが溜まってしまったので、ちょっと整理しておこうと思います。
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私が体験した同様のこと
そういう私もグラフィックデザイナーを長い間やっていました。
その中で、同様のことを私も言われました。
・○○くん、ちょちょっと名刺作ってくれない?
・今年も年賀状お願い。
・お店のロゴ、かっこいいのに変えたいんだけど、仕事の合間とか、できない?
というもの。
依頼してくるのは、仕事のクライアントや知り合い。
タダで、と言っているものはまだマシで、料金のことにはずーっと触れずに最後まで持っていこうとするパターンも多い。
こちらは、料金はどうしてくれるんだろ?…と思いながらやることもある。
何かの仕事を受注している時に、オマケ的に依頼してくるクライアントもいる。
仕事で接しているので、請求時にデザイン料を加えていくと、「えっ!これ取るの?」と逆ギレ気味に開き直ることもある。
若い時は仕方なく、押されるままにタダでデザインの仕事をやっていた。
しかし、経験も長くなってくると、聞いた時点で料金を整理して、やるかやらないか?を白黒つけるようになった。
それでも、言い出せないことも多い。
印刷料は払うのに、デザイン料はケチる
このようなことを経験して、デザイナーが思うことは、
・印刷代は払うくせに、デザイン代はケチる…といういうのに傷つく。
・小さな名刺作るのだって、一定の手間と時間がかかるのにな…。
・ロゴなんて1週間仕事なのに…。
しかも、変に知り合い…という場合は、へたなものを出せないので逆に手が抜けない感覚があって、
仕事だけの関係のクライアントよりも、考える時間がかかったりします。
なまじその人を知っている場合だと、その人の好みを想像してより細かいデザイン作業をしてしまう…し。
また、そもそも名刺やDMの仕事って、ほぼ赤字だし。
タダで仕事をさせようとする発注者
タダで仕事をさせようとする発注者の意識とは、どんなものなんだろう?
これを想像すると、
・自分の仕事の経費周りのことしか考えていない。
・名刺ひとつに何万円もかけられない、だから削れるところは削る。
・印刷は払うしかないけど、デザインは人がやる工程なので裁量でなんとでもなるだろ。
しかし、デザイナーからしてみれば、名刺ひとつに手間や経費はかけられない…という問題を、
デザイナーが丸ごと肩代わりしている感覚。
かけたくない経費をデザイナーに押し付けて、自分は目をつむってしまって見ないふり。
しかも、小さな名刺であっても工程は少なくなくて…
・ヒアリング
・リサーチ
・構想・考える時間
・デザインアウトプット
・プレゼン用セットの制作
・プレゼン
・訂正のヒアリング
・再デザイン
・プレゼン用セットに制作
・プレゼン
・(繰り返し)
・クライアントOK
・印刷用データ作成、
・校正のやりとり
・校了、印刷データ渡し
・印刷物納品
最終納品物は小さくても、これだけの工程を何日もかけてする必要があるのです。
これ、1、2万でできると思いますか?
しかも今回はタダでやれというお話…。
受注してしまうデザイナー、初心者デザイナーのチャンス
こんなブラックな条件にもか関わらず、受注してしまうデザイナーがいることも確か。
特に、友達関係のほか、5,000円などの格安で受けてしまう場合など、デザイナーにも事情がある。
それは、副業デザイナーや独学系のデザイナーの場合。
一般的には、芸大や専門学校でデザインの勉強をした新人デザイナーは、就職活動を経てデザイン会社などに就職する。
そこでは、新人の勉強をしながら、簡単なクライアント仕事などを与えられて、徐々に仕事を覚えていく。
しかし、副業・独学デザイナーたちには、いざ仕事を始めた時にデザインの仕事を受注する方法が全くない。
そこで、ランサーズなどに登録して、ひとがやらないような格安案件を受注する。
一見、非難を受けそうな格安案件であるが、副業・独学デザイナーたちにとっては、仕事を受けて経験を積むチャンスになっている…とも言えるのだ。
プロに本業としている仕事を頼む時は、必ず代金を払う
そう言いながら、自分自身も、人にタダで物を頼んでしまいそうになることがある。
それは、知り合いのミュージシャンに、自分が開催する写真展で演奏をしてもらえないか?と思いついた時など。
つい、知り合いとの話の中で、「ちょっと2、3曲やってくれない?」って言葉が頭に浮かぶ。
いやいや、いけないいけない。ここでいつも考え直す。
そして、改めて考えるのは…
「プロでやっている方には、その仕事となることをお願いする時は、必ず正規の料金で…」
ということ。
いつも、これだけは忘れないようにしている。
まとめ・デザイン料の相場
デザイン料金にも、やはり相場のようなものがある。
それは、地域、仕事の種類、仕事のレベル、制作会社、クライアント…など、様々な条件で値段が違う。
しかも、小さな仕事ほど、都会の一流デザイン事務所の料金と田舎のデザイン事務所の料金には因果関係はなく、
田舎だから都会より必ず安いとも限らず、逆転することも少なくないと思われる。
本来、デザインの料金は、成果物が小さいからといって料金も小さくなる…とは限らない。
どんなデザインでも、一定の工程・時間・技術がかかるからだ。
そこを理解されずに、名刺だからデザインは1,000円で…としてしまうと、デザイナーは生活できなくなる。
世の中には、人件費はかかるが、仕方なく小さなものは値段を下げて売られているものも少なくない。
しかし、それが成り立っているのは、会社の業務全体で吸収していたりして、全体では商売が成り立っている。
しかし、個人・独立系デザイナーはそういった吸収できる要素がない。
個人なら、仕事に費やした時間・日数がそのままその月の売り上げにならないと困る。
印刷会社であっても、最終の納品物の利益率は本当に低い。
そもそも印刷物の相場は、納品物の価格が安いものが多いため、利益にも余裕がない。
他で損した分をこっちで吸収…とはいかないことが多い。
以前、デザイン料無しで、自治体のロゴを募集…というコンペがあり話題になったことがあった。
これに対して、デザイナーの特殊?な料金体系を改善したいと考えていた当事者たちから、猛烈な反論が上がっていた。
自治体としては、予算がないから自治体の仕事をした(大きな仕事をした実績)…ということを付加価値にしてほしいということだったらしい。
しかし、自治体のような公共性の高い仕事こそ、デザイナーの仕事の価値を理解して、率先して正当な価格で仕事を発注するべきだったと思われる。
それが、民間に広がり個人レベルにまで広がるようにしないといけなかったのだ。
これは、デザイナーに限ったことではない。
そういう動きが全ての職業に広まっていく…ということ。
SNSで流れてくるデザイン料に関する投稿に、そんな風に思っていた。
もやもやは溜まる一方だ。